語り継がれる試合になるだろう。佐々木朗希投手(3年)を擁する大船渡(岩手)が、4回戦・盛岡四戦で延長12回の激闘を4-2で制した。佐々木は194球完投で21奪三振。

8回には令和初、高校野球公式戦史上最速タイの160キロをマークした。延長12回には自身で決勝2ランを放ち、試合後には涙。98年夏の甲子園、横浜-PL学園での松坂大輔投手(現中日)を想起させるドラマは、野球界待望の大スター誕生を確信させた。

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佐々木の高校野球が終わりかけた。9回、2点のリードを追いつかれた。なおも2死満塁。1本のヒットが、1つのエラーが夏のピリオドとなる局面。1回にカット打ちをしかけてきた2番打者を左邪飛に打ち取ると、白い歯を見せた。最大の危機を乗り切ると延長12回、自身の2ランで勝負を決めた。校歌を口にしながら、泣いた。

「すごいプレッシャーとかあったんですけど、その中で勝ちきることができたので少し良かったなと」。感情の解放に、照れた。

負けたら終わりの瀬戸際で、リミッターを少し外した。8回2死、117球目に大観衆の拍手を浴びた。160キロ。7年前、あこがれのエンゼルス大谷翔平投手が花巻東時代、同じ岩手県営野球場で記録した数字に並んだ。国保陽平監督(32)からベンチで状態を確認された。「そんなに力を入れていません」。いとも簡単に投げた1球だった。

高校12号2ランは右翼ポール際への強烈な打球だった。投げて、打って、苦しみ、喜び、そして泣いた。「松坂みたいだ」という声がスタンドのファンから上がった。98年夏の甲子園、横浜-PL学園の語り継がれる死闘を思い起こさせた。2時間56分で、スターの資質を存分に示した。

時に孤高のオーラを発するが、後輩からは大人気。グラウンドのライン引きは下級生の役割。それでも佐々木は自ら率先して行い、とんぼかけの技術も後輩に伝授するという。「3年生だけじゃないんだよ。大船渡はこうやって伝統を引き継いでいくんだよ」との思いを口にし、後輩に託す。

連戦の22日は久慈との準々決勝。先発マウンドについては「体の状態を見ながら」と話すにとどめた。涙をぬぐうと「さぁ、切り替えよう」と仲間に声を掛け、変身ぶりに笑いも起きた。まだ何かが起きそうな予感を抱かせながら、大船渡の夏が続く。【金子真仁】